システム思考の第一人者であり、『成長の限界』の著者のデニス・メドウズ氏が今もっとも注視しているグローバル規模の課題は「ピーク・オイル」です。日本ではまだなじみが薄い言葉ですが、アメリカでは経済界の重要なトピックスとして最近注目を集めています。今回、メドウズ氏の知見を得て、ピーク・オイルの概要をシステム思考的な観点から紹介します。

ピーク・オイル(peak oil)とは、「peak of oil production」、つまり 原油の生産量がピーク(最高点)に達することを指します。このピークを過ぎると、その後の原油生産量は減少に向かいます。

一方で、世界的に原油の消費は増加傾向にあり、今後も人口増加と経済発展の結果、需要の大きな増大が予測されています。消費が増加し、生産が減少に向かうと、どういう事態が起こるのでしょうか? 価格の高騰です。現在、原油価格は1バレル60ドル台半ばで推移していますが、近い将来には200ドルにもなるのではないか、と言われているのです。

この「ピーク・オイルはいつ来るか」が、この1年半ほど、アメリカで大きな議論になっています。せいぜい孫の時代だろうと思われていたピーク・オイルが、今まさに到来しつつあるという説が有力となってきたからです。特にこの半年間は、経済の専門家にとどまらず、一般世論やビジネスの議論の中でも大きく取り上げられています。

1956年に地球物理学者のM・キング・ハバートは、世界中の油田を調査し、原油に関する知識と経験をもとに、「アメリカの原油生産のピークは1970年頃に到来する」という予測を示しました。当時のアメリカはまだ、世界最大の原油産出国でしたから、経済界はその予測を笑い飛ばしました。

しかし、実際にはほぼ予測どおりの1971年に、アメリカの原油生産はピークを迎えます。それ以降、アメリカの原油生産量は減少を続け、アラスカの油田を加えることで一時的に下げ止まったものの、すぐにふたたび減少に転じました。(図1)この国内の原油生産のピークを過ぎた後も、国内原油消費量は増え続け、アメリカは世界最大の原油輸入国となっていったのでした。

図1:アメリカの原油生産量(1890-2000年)
3.11US oil ED.jpg
(出典:メドウズ、他『Limits to Growth: 30 Years Update』)

米プリンストン大学の地質学者ケネス・デフェーイェスは、師であるハバートの手法を用いて世界のピーク・オイルを計算し、2005年頃に世界の原油生産はピークに達するとの予測を示しています。(図2)ピーク・オイルは、もともと地球にあった原油埋蔵量の半分を使い切ったときに訪れると言われています。半分残っていると言っても、残り半分の資源を発見し、生産するにはとてもコストがかかるため、生産量は減少に向かうのです。

世界のピーク・オイルが到来する時期に関しては、未発見の原油埋蔵量がどれくらいあるかの推定によって、楽観的なものから悲観的なものまでさまざまな予測があります。しかし、どの予測をとっても、予測時期の違いは20-30年の幅に過ぎません。つまり、向こう30年間の間には確実にピーク・オイルが訪れるということです。そして、ピーク・オイルは30年後ではなく、すでに今起こっているという説もあり、その説を裏付ける多くの事実が注目されています。

図2:世界の原油生産量(1850-2050年)
3.12 Global Oil.jpg
(出典:メドウズ、他『Limits to Growth: 30 Years Update』)

まず、地域別に原油生産量を見ると、アメリカのみならず、中東と旧ソ連以外の地域でも1997年までに原油生産量のピークを過ぎています。中東と旧ソ連は現在原油生産量の4割、既知の原油埋蔵量の約3分の2を占めているのですが、旧ソ連の原油生産のピークはこの10年のうちに来ると考えられています。中東のみがそれ以降も生産量を持続できると見られていますが、それでもその他の地域の生産の落ち込みはとてもカバーしきれません。

また、新しく発見される原油の量はどうでしょうか? 実は、世界の原油の年間発見量は、1964年にすでにピークを迎えています。そして80年代から、消費量が毎年新たに発見される埋蔵量を上回っており、現在では4バレル消費する間にわずか1バレルしか発見されていない状況です。

一般に発見される資源量がピークを迎えておおむね20年から40年後に、その資源生産のピークが来るといわれています。アメリカの原油は、1940年代から50年代にかけて発見のピークを迎え、1971年に生産のピークとなりました。

世界の原油にあてはめれば、仮にオイルショックによる消費の減少が起こらなかったならば、とっくにピーク・オイルが起こっていたことでしょう。世界はそのピークを今まさに迎えつつあると考えられているのです。

もう一つ、重要な事実は、原油の発見コストと生産コストが急増していることです。すでに、商業的に生産可能な原油の9割が発見されているといわれます。仮に未発見の原油が予想以上に残っていたとしても、その発見と生産にかかるコストが高くなりすぎると、誰も開発しようとはしなくなるでしょう。

かつてアメリカでは、1バレル相当のエネルギーを使って、100バレルの原油を生産することができました。しかし、現在では、アラスカなどアクセスしにくいところで生産するため、同じ1バレル相当のエネルギーを投入しても、15バレルの原油しか生産できないのです。アメリカ以外の地域も、まったく同じ状況にあります。

このような重要な事実があるにもかかわらず、なぜ今までピーク・オイルの到来は看過されてきたのでしょうか。次号では、システム・ダイナミクスのモデルを用いたメドウズ氏の説明を紹介しましょう。



          #          #           #

●シリーズ第2回第3回

<システム思想で変化を創るより引用終了>


<みずほ情報総研より引用開始>
ピークオイルと石油の未来 -ハバート曲線から-
2007年1月9日

「ピークオイル」という言葉がさまざまな場面で取り上げられるようになってきた。その基礎となっているのは、1960年代にシェル米国社の地質学者ハバート(M. King Hubbert)が提唱したハバート曲線であるが、「ピークオイル」という言葉のみが先行してその概念がよく理解されているとは言えない。そこで、「ピークオイル」がどんな意味を持つのか整理したいと思う。

ハバートは、石油の生産がロジスティック関数に従うと考えた。これは人口学や生態学から生まれた概念で、たとえば餌を入れた密閉容器の中にショウジョウバエを放した時の個体数の変化を示す関数である。はじめのうちは空間も餌も十分あるので、ハエの数は指数関数的に増えるが、徐々に環境は悪化し餌を得る確率も下がるので増加率が鈍り、あるとき減少に転じる。その後、減少率は低下するが徐々に個体数は釣鐘型のカーブを描きゼロに近づいていく。それがピークに達するのは、誕生したハエの総数の半分が生まれた時となる。

これを石油に当てはめれば、生産が進むに従って油田の発見確率は下がり、採掘コストも増加して、生産が頭打ちになる。そして、技術的・経済的に採掘可能な資源総量(究極可採埋蔵量)の半分を生産したときに、生産量が「ピークオイル」に達するというのである。
このアイディアは定性的にはもっともらしいが、発表当時厳しい批判に晒された。ハバートはこれを米国内の石油生産量について考えたのだが、1971年にそれはハバートの予想通りにピークを迎えて減少に転じた。ハバートはそれをさらに世界全体に当てはめて、ピークを2000年頃と予想した。その後、1998年になってキャンベル(C.J.Campbell)とラフレール(J.H.Laherrere)はScientific American誌に発表した論文で再びハバートを取り上げ、ピークを2004年と発表した(現在は2008年頃とされている)。
ハバート曲線を世界の石油生産量に当てはめることに対する批判の中心は、利用可能な資源の総量に関するものである。究極可採埋蔵量の推定値は様々あるが、概ね2兆バレルから3兆バレルの範囲であり、過去の生産動向は高めの数字を支持しているようである。これは、EOR(増進石油回収)技術で回収率の向上(取りこぼしを減らす)ことができるようになったこと、過去に困難だと思われていた大水深海域の資源やオイルサンドのような重質油の生産が実用化していることなどの技術的貢献が大きい。
もう一つの批判は主にエコノミストからのもので、石油生産量を決めるのは総資源量ではなくて、その時々の需要と供給の関係であり、需要に対して供給が不足すれば新たな投資と技術開発で供給が増加するのだからピークは有り得ないというものである。
前者の批判については、確かに究極可採埋蔵量は増えているように見えるが、世界のエネルギー需要の増加が指数関数的であることを考えれば、総量が大幅に増えてもピークの遅れはわずか数年のオーダーであり、今世紀の早い時期にピークに達するという点は変わりそうにない。後者の批判に対しては、確かに微分的にはその通りかもしれないが、長期的に見れば生産を需要に追従させるのにも物理的限度があり、それは資源総量と関係しそうである。
では、米国での成功からハバート曲線は正しいと言えるのか?米国の場合は、資源が無くなったのでアメリカ人が石油を使わなくなったわけではない。この場合には、海外から石油が買えたので国内資源に依存しなくてもやっていけたのである。その点では、米国のピークオイルは大きな問題ではなかった。しかし、別の惑星から石油を輸入することはできないので地球全体にはこれは当てはまらない。
ハバート曲線はしばしば「悲観的」と形容されるが、これは長い時間かけて徐々にエネルギー源が代替されるというある意味楽観的な予測かもしれない。経済が停滞して需要が減るのかもしれないが、ハバート曲線自体は何が起こったのかを教えない。仮に需要に合わせて生産が増えていけば、準備期間なく急激に資源が不足するイースター島型の破局シナリオも描ける。従って、ピークが後ろにずれるということが「楽観的」であるわけではない。問題は人間の対応なのである。
一方、国内の石炭資源のようにより安価な代替資源が確保されて資源が残っていても使用されなくなるという可能性もあるが、石油が極めて生産・輸送・貯蔵しやすく電力や動力に変換しやすい資源であることを考えると有り得そうにない。CO2排出規制のような環境制約によって使用が制限されることはあるかもしれないが、これは自然界及びマーケットで自律的に定まるというよりは人間の選択である。
ハバート曲線とピークオイルは自然の摂理でも、証明すべき科学的な仮説でもない。むしろ、資源の需要と供給の関係に人間がどう振舞い選択すべきかを検討する基本的な枠組みと考えるべきである。この曲線が正しいのか、これに基づいて将来予測できるのかを議論することよりも、資源が減退期であるという現実認識の元に、技術・経済・環境・社会のあり方に何が起きていて、今何をすべきかを考えることが重要である。

(環境・資源エネルギー部 山本 晃司)
<みずほ情報総研より引用終了>


<分散型エネルギー社会を目指してより引用開始>
ピークオイル論はもう決着がついている?!

 私的には決着がついたので(結論? わからない、ってことさ)刺激的なタイトルをつけたが、もちろん結論が出たわけではない。「決着」という意味は、(ほぼ完全に)論点が整理できた(と思う)、ということである。

 私は、ピークオイルを巡る論点は以下の3つに整理できると考えた。
(1) 「オイル」の定義、あるいは範囲
(2) グラフの下の面積、すなわち究極可採埋蔵量(人類が過去・現在・未来を通じて利用することの"できた"オイルの量)
(3) グラフの形、すなわち、過去・現在・未来を通じた毎年のオイルの生産量の経年変化

 整理が完了したので「qed」、でもよいのだが、それでは味気ないので、以下、解説、あるいは箔つけを行うことにする。(1)~(3)を見ただけで「なるほど」と思った方にとっては蛇足になるだろうが。

 なお、用語について一点。「ピークオイル」という言葉を尊重したために、(1)で「石油」や「原油」ではなく「オイルの定義」という表現を採用した。そこで本稿では(1)で定義した石油について「オイル」という表現で統一することにする。

 さて、なぜ上で私が「箔つけ」という表現を用いたかというと、以下、アメリカ政府EIA/DOE(Energy Information Administration/ Department Of Energy)のホームページから論文を引っ張ってきて、「ほら、私と同じことを言っている」と書くからである。引っ張ってくる論文は
John H. Wood, Gary R. Long, David F. Morehouse "Long-Term World Oil Supply Scenarios - The Future Is Neither as Bleak or Rosy as Some Assert" である。
該当ページはここをクリック
(近々、この論文全体の「読みとき」をこのブログ上で行いたいと思っている)

(1)について
 この論文の最初のパラグラフには、非常に重要なことが書かれている。英語の勉強のつもりで、一文ごとに丁寧に読んでみよう。なお、鉱山学的にきちんと定義されている可能性のある単語がいくつか出てくるので、そこには後で調べられるよう原語を[]書きで入れておこう。
○第1文(Conventionally reservoired crude oil resources~)
 ここでオイルが定義されている。つまり、井戸の穴[well bore]からあらゆる手法を使って技術的に生産することが可能な原油[crude oil]がオイル[conventionally reservoierd crude oil]であると定義している。

○第2文(Not included are~)
 これも定義の一環。上で定義されたオイルに含まれないものとして
・タールサンド[tar sand]やオイルシェール[oil shales]
・生成された液体燃料(GTL、液化石炭)
を挙げている。

 (1) に関係のある部分はここまでだ。同じ言葉を違った意味で使うことで議論が混乱することがある(私はそれを「バベルの罠」と呼んでいる)ので、それを避けるためにあらかじめ主要な用語を明確に定義することは重要だ。石油をめぐる議論の場合、生成された液体燃料までごっちゃにする議論はさすがに少ないだろうが、タールサンド等を含めるかどうかは最初の段階できちんと議論しておかないと先に進めない。
 現時点ではタールサンド等は除外してピークオイルを議論した方がいいと私は考えており、この論文と同じ立場に立つ。

(2) について
○第3文(Earth's endowment of~)
 地球のオイル資源量[endowment]は大きいけれども有限だと言っている。つまり、地中で生成され続けている、などの理由で(事実上)無限とする説は取らないということだ。私もこの立場で考えている。

○第4文(Production from it may~)
 オイル生産量は今世紀中にピークを迎えると言っている。オイルを「有限」と考える人のほぼすべてがここは同意見だろうと私は思う。

○第5文(All or very nearly all of~)および第6文(All or nearly all of~)
 すべて、あるいはほぼすべての石油貯留層[正式の訳は? petroleum basin]はすでに発見済みだ[identified]と信じられている。そしてその大部分は探査済み[explored]である、部分的探査済みからほぼ完全に探査されたものまでさまざまだが。
 発見済み・探査済みの石油貯留槽にある油田[oil field]のすべて、あるいはほぼすべては、すでに発見され[discovered]生産に入っている。

 identified・explored・discovered、そして petroleum basin・ oil field は、おそらく鉱山学用語だろう。違いがよく分からない。とはいえ、あれこれ考えて、この2文から次の①と②が読み解けると私は考える。
① エイモス=ヌルなどが言う「巨大油田の発見は終わった」という主張に対して、この論文もほぼ同意見であること。
 ヌルの論文(Oil Future and War Now: A Grim Earth Sciences’View)は日本語にも訳されて(石油の将来と現在の戦争: 厳しい地球科学からの観点)、ピークオイルの議論でしばしば引用されている(http://www.gupi.jp/nur/oil& war.pdf で読むことができる)。
② 地下に存在するオイルのほぼすべてについて、何らかの情報を人類が持っているということ。
 石油貯留槽のほぼすべてが発見済みであり、しかも多少とも探査済みであるということは、何らかの地質学的情報が得られていると理解していいだろう。また、石油について人類が持つ情報が最も蓄積されているのはアメリカ・イギリスだという理解は一般的なものだろう。したがって、②は下のように読むこともできるのではないか。
②' この論文で得た結論は(未知の地下に関する未来予測としては)かなり精度の高いものだという自信を、筆者は持っている。
 ここで付記すると、関岡正弘は、OPECの油田に関して英米が持っている情報自体の信頼性に疑問を投げかけている(詳細は略)。

○ 最終文(Production is indeed clearly past~)
 巨大な石油貯留層のいくつかでは、すでにピークを過ぎている。

 この論文全体を通じて見られるのは、ハバートやキャンベルを否定するのではなく「彼らは古い情報にもとづいて判断したので、ピークを早く予想しすぎた」という論調を取っていることだ。
 つまり、彼らが推測したよりも多くのオイルが利用可能であり、そして、グラフの形状は左右対称ではない、と。


(3)について
 グラフの形状についての記述は、上で訳した部分より少し先の方で出てくる。これについては近々に別稿を立てて分析したいと考えている。
 ただ、予告、ということでグラフを一つ示しておこう。この論文の中のグラフではなく、その元になった2000年4月の United States Geological Survey (USGS) による分析結果に示されたものである。
ここをクリックしてグラフを表示
(出典: http://www.eia.doe.gov/pub/oil_gas/petroleum/presentations/2000/long_term_supply/sld015.htm 中の、slide 15 of 20)

 これは、グラフの下の面積、すなわち究極可採埋蔵量を3兆30億バレルと想定した場合において、2通りのグラフ形状の可能性を示したものである。
 まず実線の方。これは「2%成長・2%減少」つまり、半分を使いきるまでは年率2%で産出量が増加し、ちょうど半分でピークに到達、その後年率2%で減少するというモデルにもとづいている。ピークでの切り替えが不連続であるため、先がとがった不自然な形ではあるが、ハバート曲線とほぼ同じ形状と言ってよい。
 一方点線の方は、R/Pが10を上回っている期間においては年率2%の成長が継続され、R/P=10に到達した年以降はR/P=10が維持されるよう産出量が急激に減少するというモデルを示している。
 そして EIA/DOE では点線の方が「ありそうだ」と判断しているわけだが、これについては後日別稿にて検討したいと思う。
<分散型エネルギー社会を目指してより引用終了>