テスト

2008年11月28日

テスト

[投稿者:佐藤研一朗]







  ピークオイルを乗り越えるために



~戦略的低エネルギーという選択肢~


2008年6月23日
街づくりアーティスト・佐藤研一朗
アメリカ・ニューヨーク州・ロチェスター在住





現在29歳の私は物心ついたころから多くの変化を目あたりにして育った気がする。昭和が終わり、ソビエトが消滅し、バブルが崩壊して、テロや大地震が起きて、終身雇用も年功序列も消え失せて、日本はいつの間にか落ちぶれて、自殺者があふれる国になってしまった。共産中国は気がつけば世界で最高の資本主義の国になっていた。こんな時代に育った私が、政治や経済に強く興味を持ったのは、なぜそんな変化が起きるのか、これからどうなるのかが知りたかったからだ。




この論文の結論は、
「近い将来、世界の石油生産量は頭打ちになり、石油文明の終わりが始まる。」ということだ。たったこの1行で言い表せることが、今後の我々の人生を振り回し、世界中の国々の勢力地図を完全に書き換えるだろう。今、世界は歴史の大きな転換期にいる。我々の目の前で、今まさに始まろうとしていているこの変化に比べれば、私たちがいままで見てきた変化など、たいしたことでなかったと将来気づくことになる。




ピークオイルの圧力を受け、ドルは基軸通貨の地位から滑り落ちる。アメリカはあと数年で世界唯一の超大国としての覇権を失うだろう。石油に取って代わるエネルギー源は簡単には見つからないので、当分の間、石油文明に依存している世界は、混沌とした状態が続くことになる。




エネルギー資源の値段は高騰し、つられて農産物や天然資源の値段も高い状態が当分続く。エネルギー、食料、天然資源の大部分を輸入に頼っている日本は、厳しい試練を迎えるだろう。輸出業も簡単ではない。安く大量にエネルギー源が手に入らないから大量生産は難しくなるし、大量消費できる国自体がなくなっていくだろう。ピークオイルが起きたあと、日本の舵の取り方を間違えれば、亡国の危機に瀕することになる。





私は、この難しい局面を日本は戦略的低エネルギーで乗り切るのが適策だと考える。戦略的に使うエネルギーの量を減らして、その中で何をできるか考えていくといことだ。別に江戸時代に戻れと言っている訳ではない。今まで人類が築き上げてきた知恵と技を使って、多少不便になっても、少ないエネルギーでも、今までよりも元気で幸せに暮らして方法を探るべきである。石油づけの生活をしている我々は、「エネルギー糖尿病」であり、エネルギーの使い過ぎのため健康や精神すらも阻害させられている。戦略的に低エネルギーを進めることで、この石油文明の弊害を減らすことができる。そして石油からうけている恩恵の部分を、どうやって低エネルギーで代替していくか、徹底的に頭を使い、体を使い、行動をしながらその答えを探していこう。






1、ピークオイルと地球温暖化





ピークオイルという言葉は日本で全然知られていないようである。
グーグルのニュース検索では、たった2件しか表示されない。しかし地球温暖化はなんと2千件以上もでてくる。ピークオイルがまったく騒がれず、国際政治で取り上げられないのは、非常に危ない問題を含んでいるからだ。私は今騒がれている地球温暖化対策というのは、ピークオイルがきっかけになっておきるエネルギー問題という劇薬を取り扱うためのオブラートであると思う。


エネルギーの観点から見れば、地球温暖化対策の本当の意味が分かる。二酸化炭素を出すということは、化石燃料を消費するということだ。二酸化炭素の排出量を減らしていくということは、化石燃料の消費を減らしていくということである。温暖化対策として、地球規模で二酸化炭素の排出を規制し、排出権を取引するということは、化石燃料の消費に税金をかけるということだ。化石燃料は一次エネルギー源の約80%を占めているので、エネルギーを使うことを規制しようという話なのだ。これはエネルギー税なのだ。



しかし現在、ヨーロッパが中心に進めている対策では、90年代を基準に、二酸化炭素の増加量を抑制しようとしているので、その意味合いが少し変わってくる。つまり世界的なエネルギー消費増加率税と考えていい。もちろん既に一人当たりの国民が多くのエネルギーを消費している先進国にとって有利な条件である。これは、これからますます発展しようとしている中国やインドなどの発展途上国への大きな網である。ヨーロッパにしてみれば、これから生産量が減っていく石油を、西欧の生活にあこがれて中国やインドに、がぶ飲みされてはかなわないのだ。でも腕力ではもうかなわないので、寝技のような高度な政治力で絡めとってしまおうというのだ。



「地球のために、二酸化炭素の排出を減らそう。」つまり、「化石燃料を使いすぎだ。」と他国を堂々と非難して、お金を払わせることができる。これ以上、経済発展をしたければ、我々から省エネ技術や原子力発電所を買ってくださいというのだ。「それが地球のためなのです。」と言われれば、なかなか簡単に反論はできない。なんとも狡猾であくどいセールス文句だろうか。



エネルギーを沢山使う(使える)国は裕福であり、そうでない国は貧しいという単純な事実がある。エネルギーを十分に確保できない国は、経済をまともに運営することができない。エネルギーとはその国の運命を決めるものである。だから普通はやすやす、国際政治の舞台で話し合いなどはできない。
それができれば戦争などおこらない。地球温暖化対策をみるとき、我々はその裏にあるエネルギー問題に注視する必要がある。そしてピークオイルこそが、世界中でエネルギー源の奪い合いを起こしかねない問題なのである。





2、ピークオイル:安くて豊富にある石油の終わり









ピークオイルとは何か。それは「これから世界の石油生産量が頭打ちになって、少しずつ減っていく。」という話である。安くて豊富にある石油の終わりを意味するのである。ピークオイルはアメリカの地質学者キング・ハバートが唱えた説で、石油は有限な資源であるということを前提に、石油の生産量は左右対称なベルカーブを描くのだというものだ。つまり石油の生産が始まったころは右肩上がりで生産量は増えていき、半分を過ぎると、そころから右肩下がりで落ちていくというのだ。







ベルカーブ



ピークオイルは、一番大きなところでは、「有限なものを、消費し続ければ、いつかはなくなる。」という簡単な理屈の上に成り立っている。しかし30年後に石油が地球上からなくなるというような単純な石油枯渇説ではない。石油は人類が滅んだずっと先にでも地下深くにに眠っているだろう。ピークオイル説は、「エネルギー源として使用可能な石油のうち、人類はだいたいその半分をそろそろ使い切りそうだ。」という話しだ。残りの半分の石油はどんどん掘りづらくなっていき、石油の量と質は下がっていくので、採掘コストと、採掘や精製にかかるエネルギーが上がっていって、元が取れなくなって、長い目で見れば石油が生産されなくなるということがおきる。


ピークオイルを勉強していて一番最初にショックを受けるのは、地域や各国ごとにみれば、すでにピークを迎えたところは結構あるのである。北海油田は2000年あたりでピークを迎えた。メキシコの巨大油田も近年ピークを迎えたようだ。国の名前を挙げていけば、イギリス、デンマーク、ノルウェー、イラン、クウェート、イラク、オマーン、イエメン、シリア、エジプト、アルゼンチン、コロンビア、ベネズエラ、オーストラリア、インドネシア、ベトナムと沢山上げることができる。もちろん世界最大の産油国だったアメリカではずいぶん昔にピークを迎えている。*1



1956年に当時シェル石油の研究員だったキング・ハバートが、アメリカの産油国としての能力は1970年代初頭までに、ピークを迎えるだろうと予想する学術論文を発表した。当時は、彼はキチガイのように扱われ、ジョークのネタにすらなったと、著名な投資家のジム・ロジャーズの著書「商品の時代」にそのときのエピソードが紹介されている。しかし世間の予想を覆してハバートが予想したとおりに、アメリカの石油生産量は1970年に頭打ちになり、1981年にはアラスカとハワイを除く48州における国内石油会社の産油量は三分の一近く減少した。









下の図を見てほしい。折れ線がアメリカにおける石油の生産量である。
1970年代初頭をピークに生産量が減り続けている。80年代にアラスカで石油の生産が始まっても、小さなコブをつるだけで、長期的に生産量を増やすことはできなかったのだ。この事実は非常に重たい。

 




その産油国の石油生産がピークに向かいつつあるかどうかは、新たな石油の発見量の傾向をみれば、今後どこに向かっていくか、だいたい予想することが出来る。毎年、新しい油田が見つかっていて、その量がどんどん増えているのであれば、石油生産のピークを心配する必要はしばらくはないのである。しかし生産量が増えていき、発見量が減り続け、生産量が発見量を追い抜いてしまえば、後は生産量のピークを迎えるのを待つことになる。






給料が石油発見量で、支出が生産量、貯金が原油の埋蔵量であると考えればわかりやすい。毎月の給料よりも、支出が多ければ、貯金を取りくづして暮らすしかない。そのままつづけば、そのうち貯金がなくなる。


これを、アメリカでの事例を参考にして見ていこう。先ほどのグラフをもう一度見て欲しい。今度は発見量を表す縦線が重要だ。これによれば1930年にアメリカ国内の石油の発見量はピークを向かえ、1940年あたりでに生産量が発見量を上回り、1970年に生産量のピークを迎えた。そこから生産量は毎年減り続けている。



Power Down Richard Heinberg18ページより



これを順番に並べると下のようになる。

(1)石油の生産が始まる (2)発見量のピーク (3)生産量が発見量を追い越す 
(4)生産量のピーク (5)石油の生産量が落ち続ける (6)石油の生産がほとんどなくなる




皆さん、すでにお分かりのように、アメリカはすでに(5)の状態である。1930年代のような油田の発見が相次ぎ、開発されなければ、ここから数十年かけてこの(6)までたどり着くことになる。





では世界全体の石油はどうなのか? 現在、世界の石油生産量のピークは、いつきてもおかしくない状態にある。下の図を見ながら解説していこう。これは先ほどのグラフの世界バージョンで、世界の石油発見量と生産量をあらわしている。驚愕することは、(2)の世界の発見量のピークは1964年にすでにきている。以来、発見量は多少の上下はあるが年を追うごとに少なくなってきている。 次に(3)の生産量が発見量を追い越したのは1980年代前半で、いまでも追い越した状態が続いている。もちろん次の一歩は(4)生産量のピークである。




アメリカでは、発見のピークから40年後、生産量が発見量を追い抜いてから約25年後に、生産のピークがきた。これを世界で当てはめてみると、現在2008年時点で、すでに世界の石油発見のピークから44年がたち、生産量が発見量を追い抜いてから、約25年がたった。これがこのまま予想として使えるわけではないだろうが、大きな意味で参考になる数字であろう。だから世界の石油ピークは、50年後や100年後にくるのではなく、近い将来いつ来てもおかしくない状態と見ていいだろう。

エネルギー総合工学研究所 季報エネルギー総合工学Vol.28No.1(2005.4) 石井吉徳


3、世界のピークはいつくるのか


ある意味で、ピークオイルの論争にはもう決着はついている。大きく一致しているのは、石油は有限な資源だから、ピークはいつか来るとしているところだ。石油は有限な資源であるということを前提にしている専門家たちで議論されるのは、世界のピークはいつ来るのかというところだ。これには楽観論から悲観論まである。


たとえばもっとも楽観的な米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)の予測によれば、世界がピークを迎えるのは2030年ごろとしている。*1 それに対して、ハバートの流れをくむピーク論を主張する学者たちは、もっと悲観的な見方をしている。元祖ピークオイルのキング・ハバートは、2000年前後と予想した。 「The
End of Cheap
Oil」の著者、コリン・キャンベルは2010年までには石油生産のピークを迎えるといっている。*1 エネルギー関連の投資銀行を運営しているマシュー・シモンズも同じく2010年までにはピークオイルが到来するといっている。(この人はブッシュ
政権のエネルギーアドバイザーをつとめていた。)*2 「Party's
Over」の著者、リチャード・ハインバーグにいたっては、2005年5月にピークを既にうち、ピークはすでに過去形だと主張していた。*3









今起きているという主張から、2030年ごろまでと非常に幅が広い議論があるのがわかる。傾向として、行政機関、国際団体、石油会社が出している予想はだいたい楽観的で、投資家やピーク論者は悲観的な見方をしている。ピーク論者達は「今がピークだ。もうすぐピークがおきる。」と、いつも主張しているという批判や、予想が外れると、予想の年を後ろにずらしているという批判もある。たしかに先にあげたキャンベルは当初、1990年代後半にピークがくるといっていたが、今では2010年までと主張している。*1





ピーク論者の予想がなかなかあたらないのにはそれなりの理由がある。世界の石油の埋蔵量の統計がかなりいい加減なもので、当てにならないからだ。これだけ世界が依存している物なのに、だれも世界にどれだけの石油があるかよくわからないのだ。






2004年に、石油会社のシェルは、保有埋蔵量を22%も過大に発表していたことを明らかにした。テキサスの石油会社エル・パソは40%水増ししていた。でも石油会社はまだかわいいものだ。少なくても株主に説明責任があるからだ。しかしサウジアラビアなどの産油国は第三者独立機関が埋蔵量を調査することすら許していなく信用に置けない。OPEC 設立以降、加盟国のおおくが突如、1年で埋蔵量の数字を倍増させたというのは有名な話である。OPECの生産割り当ては加盟国の埋蔵量に基づいて決められるからだという。*4


このように石油会社や産油国の埋蔵量は全く当てにならない。だから、ピーク論者は毎月発表される世界各国の生産量を見ながら一喜一憂することになる。






私自身は何年何月に世界のピークがくるのかを予想するのはあまり重要ではないと考える。まずピークの日を境に、世界中の石油が消えてなくなる訳ではない。しばらくの間は、世界には大量な石油がある。1日で何かが変わるわけではない。世界中の誰もがピークを打ったことすらも気づかないだろう。ピーク後、5年、10
年たって、やっとあの時がピークだったと言えるのだ。それが世間一般に知れ渡るのにはずいぶん時間がかかるだろう。










4、石油の量、質、生産コスト、EPR








現在の安くて豊富な石油を支えているのは、穴を掘れば良質で豊富な石油がわき上がってくるような20世紀初頭から中ごろに見つかったような巨象と呼ばれる巨大な油田である。巨像を抜きに石油産業は成り立たない。世界最大の油田は、サウジアラビアのガワー
ル油田で、長さ約240Km、最大幅約40Kmもあり、生産量は450万バーレル/日あり、この油田だけで世界で6%の石油消費量を占める日本をまかなえるほどである。このような油田では、もちろん埋蔵量は豊富で、石油の質も良く、生産コストが安い。









しかし、このガワール油田ですら既にピークを打ったのではないかと疑われている。石油の自噴を助けるために、毎日約100万トンの海水が圧入されながら生産が続いている。専門家たちからはガワール油田は死につつあると噂されている。*1


ピーク楽観論者でも悲観論者でも一致している点は、これから石油の生産コストが上がっていくという点である。ガワー ル油田のような在来型と呼ばれる油田の開発がどんどん難しくなってきている。つまり、安くて豊富な石油の生産を可能にしている巨像たちは、数十年前に開発されたものであり、多くが生産のピークを超えてたり、迎えつつあるのだ。その上、近年は発見される巨大な油田の数、埋蔵量ともに非常に少なくなってきている周知が一致する事実である。


下の図は、発見された巨大な油田の数と埋蔵量である。1960年代を境に、発見される埋蔵量の量が減り続けている。もう一つこのグラフを見てわかるのは年を追うごとに、一つの油田あたりの埋蔵量が小さくなってきているという事実である。最新の技術をもってしてもこの傾向を覆せていない。この部分はだれにも否定することが出来ない大きな事実である。つまり穴を掘れば石油がわいてくるような巨大な油田の時代は終わりを迎えているということである。


Party's Over, Richard Heinberg 124ページより





ピーク楽観論者と悲観論者の差は、このような在来型の巨大油田に取って代わるものがあると思っているか、そうでないかの違いである。








下の図は、楽観論者の代表格のIEA(国際エネルギー機関)の石油生産量の未来予想である。ちなみにIEAは第一次オイルショック後に当時アメリカの国務長官だったキッシンジャーの提唱のもとつくられた石油消費国の集まりである。









下の図を見ると明らかなように現在稼動中の油田の生産能力は今から落ちていくと見ている。ここはピーク悲観論者と意見を一致する点である。IEAが考えているのは、現在稼働中の油田に、さらにお金をかけて生産量を向上させピークを先延ばしにする。その上で新たに、原油の二次回収を進める。これは現在すでに石油生産が終わってしまったような油田に、二酸化炭素や、天然ガスを注入して、なんとか油田にのこされた粘度の高く質が悪い原油から、石油を生産する技術である。そしてタールサンドや石炭や天然ガスから作った液体燃料、バイオエタノールのような非在来型の液体燃料や、最後に新規の油田の開発などもくわえて、世界はピークを迎えるどころか、今後20年は全体の石油の生産量は増えていくと考えているのである。


これらの努力でピークを回避できるかどうか、私は怪しいものだと思うが、ただはっきりしているのは、いずれも手法も巨大な開発費が必要であり、石油の生産コストや精製コストも、在来型の油田と比べたら、高くつくものばかりであるという点である。これからは今よりもずっと多いお金をかけなければ、石油は生産できなくなっていくのだ。だから石油の値段は上がっていく。もし楽観論者たちが正しかったとしても、最低でも安い石油は終わりを迎えるということである。

Existing capacities :現在稼動中の油田の生産能力

Development of existing reserves :現在稼動中の油田の生産量向上

Enhanced oil recoveries 原油の二次回収

Non-conventional oil :非在来型の液体燃料

Development of new discoveries :新規油田の開発

実質的に[石油ピーク]を認めたIEA:20世紀型文明の行方 石井 吉徳
http://www007.upp.so-net.ne.jp/tikyuu/oil_depletion/iea_exxonmobil.htm





私が、IEAの予想が信じられないのには、理由がある。現在稼動中の油田の生産量向上や、原油の二次回収、非在来型の液体燃料、新規開発の油田などから生産される石油は、掘りづらくて高い油なのである。開発、生産、精製するのには、莫大なお金とエネルギーがかかるので、現在巨像から生産されている石油の量と質を保てるとは思えない。



最近、ブラジルで発見されたという巨大な深海油田などはどうだろうか。未確認で非公式な発表(強調)によれば、埋蔵量はここ30年で発見された油田なかで最大のものになる可能があるそうだ。*2 しかし石油を採掘するためには、2千メートルに及ぶ岩
塩層を掘り進めなくてはいけない恐れがある。*3 もちろん高い技術が要求され、高い採掘コストとエネルギーがかかるので、安くて大量な石油を生産するのは難しいだろう。うまく言っても高くて大量の石油である。これでは、とても地面の下に石油が眠っているガワール油田の代わりにはならない。






非在来型の代表格であるカナダのオイルサンドはどうだろうか。カナダのアルバータ州には世界の石油埋蔵量の3分の1にあたる1兆6000億バレルが眠っている可能性がある。しかし全てを石油として生産できる訳ではない。経済的なコストと、エネルギーコストの二つの制約を受けるからだ。実際に技術的に採掘可能な石油はそのたった5分の1の3110億バレルである。その上、低コストで採掘可能なのは、そのわずか0.06%の2億バレルほどである。*4







このカナダのオイルサンドから石油を生産するのには大変な技術と労力がいる。たとえばアルバータ州にロイヤル・ダッチ・シェルの施設ではなんと1万人の従業員が働いていて、石油会社は既に230億ドルを複雑な採掘技術につぎ込んでいる。*4


オイルサンドから石油を生産するためには膨大な天然ガスと水が必要とされる。石油を絞り出す(強調)ために、油田に蒸気を数年にわたって注入しなくてはいけないのである。露天掘りの場合は、たった1バレル(約160リットル)を生産するために2トンのオイルサンドが必要であり、環境に与えるダメージが大きい。*5 カナダの天然ガスの需要はオイルサンド生産の為に逼迫しているそうである。*6








石油生産の値段は高くついても、ガソリンの値段が上がれば商売が成り立つかもしれない。しかしもし投入した天然ガスのエネルギー量より、取り出した石油のエネルギー量が大きくならなければ、何の余剰エネルギーを得ていないことになる。こうなると元の木阿弥にもどる。








このように、エネルギーの埋蔵量だけでなく、エネルギー質が非常に大切なのだ。エネルギーの質は普通、エネルギー収支比(以後 EPR
Energy Profit
Ratio)として表されることが多い。読者のみなさんには、このEPRをしっかり理解していただきたい。このEPRを使うといろんなことが見えてくる。


EPR = 取り出すエネルギー/入力エネルギーの比


EPRとはエネルギー源から、取り出せるエネルギー量を、取り出すために使ったエネルギー量で割ったものだ。これが1以下になったら、投入したエネルギー量より、取り出すエネルギー量が少なくなって、資源とは呼べなくなる。採掘をすればするほど、エネルギーを失うことになる。逆に数字が大きければ大きいほど、質がいいエネルギー源だといえる。










1940年代頃のアメリカで採掘されていた油田のEPRはなんと100以上だったそうだ。それがピークを迎えた1970年代になるとすでに20に低下し、1985年で10になり、最近ではなんとEPRが3程度になったそうである。*7
如何ピークを過ぎた油田から石油を採掘するのが難しいかという典型的な例である。


オイルサンドのEPRは、現在だいたい2くらいだそうだ。*8 しかし大量に埋蔵しているオイルサンドをすべて回収して石油を生産しようとすれば、EPRがどんどん下がっていき、その内1以下になり、資源を溝に捨てることになる。大量の天然ガスを使って少量の石油をつくるなら、最初から天然ガスを使った方がいいに決まっている。







これと同じようなことが世界の石油でも起きているのだ。IEAが言っているこれから生産される油のEPRは、在来型に比べEPRがもともと低いし、生産量を増やせば、増やすほど下がっていく。ここが非常に大切である。掘りづらくて高い油の正体は、つまりEPRが非常に低い油ということになる。






5、伸びない生産量、伸び続ける潜在需要













ではピークオイルを補助線に、今(2008年7月現在)の石油高騰について考えてみよう。1990年代後半には1バレル(160リットル)20ドルを割り込んでいた石油価格が、2002年あたりから上昇し続けて、2008年に入り、100ドルを超える状態が続いている。世界中が固唾をのんで、石油の値段の行き先を見守っている。

私は二つのことが同時に起きていると見る。伸びる石油需要に石油の供給が横ばいになっていることと、石油ドル体制が揺らいでいてドルの価値が低下していることが、石油の値段を押し上げている原因である。そしてどちらもピークオイルというキーワードでつながっているのだ。


いままで述べてきたように、世界中で発見される油田の数と量は1960年代をピークに減り続けている。安くて豊富な石油の供給を可能にしている本当に巨大な油田がここ数十年見つかっていない。世界中の巨大油田が大変古くなってきていて、中にはすでにピークを打ったり、そそろそろピークに差し掛かっていると疑われているものがある。ここ数年で、イギリスや、メキシコのように実際ピークを打ったところが明らかになってきた。これらがまず最初の前提である。









そんな中で、2005年からここ3年間、世界全体の石油供給が横ばいであり、増えていかない状態が続いていた。*1 ピーク悲観論者のなかにはこれを見て世界はピークを打ったと主張する人もいたし、楽観論者であっても、今までのように、右肩上がりで石油の供給を増やしていくのには、非常に多くの労力と、お金が必要だと事実上認めていた。つまり専門家たちは最低でも安い石油のピークを認めたことになる。


一方で、需要の統計をよく見ていけば、よく指摘されるように、中国やインドでの消費量がものすごい勢いで増加しているのがわかる。両国ともここ十年間で石油消費が約2倍になっている。とうに日本の石油消費を追い越して、中国一国で世界の石油消費の10%にいたるまでになった。新車販売台数は、これも日本を追い抜いて、年間約900万台にも及んでいる。*2 インドでも、自動車の普及がどんどん進んでいる。タタ自動車が、たった30万円で買える乗用車を販売しようとしているというのは象徴的なニュースである。*3 1977年にはアジア全体が占める世界の石油消費はたった16%でしかなかったが、2007年では約30%までに増加している。*4






ちょっと前の中国の風景として思い浮かべるのは、ものすごい数の自転車が町中をあふれているという絵である。しかし上海のような都会では、今、自動車が溢れかえっているそうだ。一方日本では、高騰するガソリン価格に押されて自転車がブームになっているというのだ。アメリカでも同じようなことが起きている。私が住んでいるアメリカ・ニューヨーク州の北のはずれロチェスターという地方都市は、自動車社会が行き着いた先のような場所である。私が3年前に引っ越してきたときは、自分が車を運転せず、いつも自転車に乗って生活していると言うと、こいつは頭がおかしいのではないかというような顔をされたが、今年になって急に街で見かける自転車の数倍に増えた。非常に驚くばかりである。







ここ三年間は世界の石油生産量は横ばいである。そして過去数十年、自動車の平均燃費というのは実はあまり変わっていない。それどころかアメリカではSUVのような大型車の普及が進んだので下がりつつある。そう考えれば、つまりこの三年間、世界全体でみれば走らせられる車の数は増えていないはずである。それなのに世界中で自動車の数が増え続けているのだ。


中国で、自転車を捨て、自動車に乗り始める人が増えれば、世界のどこかで、自動車通勤をあきらめて、自転車に乗り換える人が増えるはずである。世界で動かせる車の数が決まっているのだから、日本やアメリカで自転車に乗る人が増えているのは、何ら不思議でない話なのだ。






供給が増えない状態で、潜在的な需要が増えるのだから、値段はもちろん上がるに決まっている。需要と供給のバランスが崩れているのだから、値段は上がるし、ここに投機のお金が流れ込まないと考える方がおかしいのである。値段が上がることで、アメリカの貧乏人は車に乗るのをあきらめて、中国の金持ちは車にのるという世界の石油消費の再構築が進んでいるのだ。アメリカの車社会は文化だと思っていたが、何のこともない値段の問題だったのだ。そして世界のピークが明らかになれば、石油の値段がコカコーラよりも安いということはあり得ないだろう。







6、ドル石油体制への攻撃 アメリカ石油帝国の崩壊









もう一つの原油価格の高騰の理由は、ピークオイルの圧力によって、ドル石油体制が崩れかかっており、ドルの価値が落ち始めていることである。今、エネルギー消費とともに、世界の通貨の再構築も始まっている。副島隆彦氏の著書を何冊か読んでいられるかなら当然ご存知あると思うが、アメリカがその覇権を維持できているのは、ドルが全世界の石油取引で使われている(いた)からである。世界最強のエネルギー源の石油にドルはリンクすることでその基軸通貨の地位を今まで保ってきた。


この辺りの議論をあまりご存じない方もいらっしゃると思うので、少し説明をしたいと思う。ドルは第一次世界大戦後イギリスポンドからその基軸通貨の地位を奪い、第二次世界大戦後その地位を不動のものとしていった。金1オンスを35USドルと定めることでその信用を保持し、世界中の通貨が固定レートでドルにリンクしていた。いわゆるブレトン・ウッズ体制である。しかし70年初頭、ドルはその地位を失いかけた。ベトナム戦争で散財した結果、財政難に陥り、1972年のニクソンショックでドルの金兌換性を廃止して、ドルはただの紙切れとなった。これはアメリカの石油ピークから二年後の出来事でやはりこれも大きな痛手だったのだろう。しかしその後、巨大な軍事力と政治力を背景に、ドルだけ(強調)で石油取引をすることをOPECに認めさせ、ドルは基軸通貨の地位を失うことは無かった。






それ以降、ドル=石油になった。つまり紙幣を印刷するだけで石油を買えるようになったのだ。アメリカはこのときブラックゴールド製造機を手に入れたといっていい。紙切れのドルを印刷するだけで、世界から石油を始め、物やサービスまでを買えるようになったのだから、これは詐欺以外のなにものでもないが、ドルに取って代わるような通貨もなかったというのが現状だろう。アメリカはこの錬金術を使って、以後40年間、世界中から物を買い続けた。アメリカの下院議員で、リバタリアンのロン・ポールによれば、アメリカの製造業が廃れたのは、自分たちで努力して製品を開発するよりも、ドルを印刷して外国から製品を買ったほうが楽だったからだと述べている。








現実には中央銀行が政府から独立してる場合は、政府がただ紙幣を印刷して物を買うことは出来ない。しかし借金をすることによって新たなお金を創造することは出来る。だからこの錬金術を使って、世界中から物やサービスを買い続けた結果が、積みあがった巨大な財政赤字や貿易赤字であり、クレジットカードやサブプライムローンと借金に溺れる
アメリカ人たちである。今ではアメリカ人は外国から借金をしなければ、家も、車も買えないし、生活すら出来ない。日本、中国、サウジアラビアなどが大量に保有している米国債をみれば、アメリカがいかにこれらの国からドルを印刷するだけで製品や資源を買ってきたのかがよくわかる。









石油の値段が1バレル20ドルを割り込んだ1990年後半、アメリカはITバブルの真っ只中にて、この世の栄華を楽しんでいた。このときアメリカはドル紙切れ石油体制成立後のピークを迎えていたと言っていいだろう。デジタルマネーといって、実体もなく世界中にあふれるお金の正体は、無制限にあふれ出る安くて豊富な石油であった。ニューエコノミーの時代だからもうアメリカに不景気にならないという人までいた。たしかに紙切れドル石油体制は、アメリカが借金をし続けられれば、いつまでも続けられるはずであった。


しかしドルに対する包囲網は静かに進んでいた。世紀末に誕生したユーロの誕生である。ユーロは老練なヨーロッパがアメリカに対抗するための作り出したしたたかな世界戦略だったのだろう。ドル石油体制が、実は紙に描いた虎だと、世界に知らしめたのが、2000年に石油の取引をユーロ建てで行おうとしていたイラクのサダム・フセインだった。イラク戦争に負けサダム・フセインは処刑されるが、パンドラの箱はもう空いてしまった。「死せるフセイン、生けるアメリカを走らす。」と歴史に刻まれるだろう。

アメリカがITだの住宅ブームだの浮かれている間に、原油高を受けながら、世界中で油田やガス田の国有化が進んでいった。気がつけば、2007年には世界の75から80%の石油は国有企業が生産するようになった。メージャーとよばれる欧米石油企業は、いつの間にはマイナーな存在になってしまった。国営石油企業はアメリカのために増産をして、石油の値段を下げようなどとと考えもしないだろう。石油が高騰した状態が彼らにとって最良な状態である。*1

 

2007年中ごろにイランは外貨準備高のドルの割合を20%まで減らして、ユーロや日本円で石油を売り始めたのだ。日本は円で石油を買えるようになった。2006年から翌年にかけて、ベネズエラのチャベスは外貨準備をユーロに移し、国営ベネズエラ石油の投資や開発のための口座をユーロや他のアジア通貨で運用することを決めた。チャベスはOPECのサミットで、ドルはバブルな通貨だから、OPECはドルで石油を決済するのをやめて、世界中の通貨で石油を取引することができる通貨バスケット制度に移行するべきだとの提案をした。OPECは通貨バスケット制度の研究を始めることで同意した。中東各国も自国通貨のドルペグをはずして、他の通貨でも石油を売りたいのだ。*2

 

ロシアのプーチンは、2007年に石油の先物取引を、ロシアの商品市場で扱いユーロとルーブルで取引を開始すると宣言した。ロシア石油会社がガスや石油をすべてこの市場で扱えば、全世界の10から20%のガスと石油の取引がこの市場で行われることになる。このようにドル石油体制への包囲網が着々と築かれつつある。*3

 




しかしドル石油体制へ最初の風穴を開けたのは、やはり石油自体であった。石油の値段が1バレル80ドル台に差し掛かった2007年夏、サブプライム危機が起こり、郊外住宅からの住宅価格が急落し始め、アメリカの住宅バブルが大崩壊を始めた。国は世界中に軍隊を派遣し覇権を広げ、街は際限なく郊外へと広がり、人は恐ろしいほどぶくぶくに太っていた。まさにすべてがピークを迎えたような姿であった。クレジットカードが上限に達したように(Maxed
Outして)、アメリカが金が借りられなくなって、今、クレジットクランチがおき、デジタルマネーが消滅しつつあるのは、安くて豊富な石油がなくなってしまったからである。





無制限にあふれ出る安くて豊富な石油の上になり立っていたドル石油体制は、ピークオイルを迎えれば一巻の終わりを迎える。石油がこれから減っていきそうな貴重な戦略物質になれば、何の裏づけもない紙切れのドルと、石油を誰も交換してくれなくなる。 つまりニクソンショックいらい、金融詐欺でその覇権を保ってきたアメリカ石油帝国の終わりも意味する。良くここまで持った物だと、逆に感心してしまう。


そしてこれはドルに象徴される紙切れ通貨体制の終わりでもある。現在原油の値段は高騰しているように見えるが、金に対する石油の値段は大して変わっていない。副島隆彦氏が、何年も前から語ってきたように、いよいよ世界は実物経済の時代にある。今後、世界の通貨が直接石油にリンクすることで世界の通貨体制の再構築が進んでいく。









たとえば、ドル表示では石油は高騰しているが、ユーロで換算すれば、ユーロはドルに対して強くなっているので高騰は半減する。これはドルプレミアムと呼ぶべきものだろう。つまり、財政赤字、貿易赤字を垂れ流し、自国で何も作らず、他国から金を借りてきて、他国から商品を輸入して消費を楽しんでいるような国の信用は低いので、その通貨は石油に対して下がっていくということだ。


これから富の源は、いかさま的な紙切れ通貨を発行する国ではない。地球から恵み、大地と太陽の恵み、そして知恵と労働力を輸出できる国である。つまりエネルギーや資源の輸出国、農作物を輸出する国、そして人的資源や技術を使って製品やサービスを輸出する国だ。


そう考えれば日本がこれからも世界中が欲しがる製品を作る国であり続けるなら、ピークがおきても、世界中の産油国は、日本に石油を売ってくれないことはないだろう、(もちろん安くはないだろうが)。ドルが本当に紙切れになる前に、どこかのタイミングで日本は、たまりにたまった外貨準備や米国債などのドル資産を、実物に換える必要がある。為替介入によって、事実上ドルに円をペグしているような状態はもうやめるべきである。どうせアメリカ人はもう何も買えなくなるし、ドルプレミアムで余計に高い石油や資源を買わされるだけである。とっとと日本は、イランから石油を円で買っているように、他の国からも円で石油で買ってこれるように手はずを整えるべきだ。



7、戦略的低エネルギー

私が日本はこれから戦略的低エネルギーで行くべきだと考えているのは、ピークオイルが疑われている中で、今のところ、石油をとって余りある代替エネルギー源が見当たらないからである。ピークがいったんおこれば、世界中が、石油が足りない分を天然ガス、石炭、原子力などでまかなおうとするだろう。そうなれば当分の間は、エネルギーが貴重で、高価な時代がつづくことになる。枯渇の心配のない風力や太陽発電などの新エネルギーが爆発的に普及していっても、量が追いつかず、問題はそう簡単に解決しないだろう。しかもこの流れは、石油に取って代わる圧倒的なエネルギー 源が確立されるまで、年々事態は悪化していく。いつそんなエネルギーが見つかるのかは誰にもわからない。(次回この辺りを、詳しく研究していきたい。)



エネルギー源が不足して高騰する中で、我々が一番効率的に生きていくためには、自ら戦略的に使うエネルギーの量を減らして、その中で快適に暮らせる道をさがしていくことだ。この考えは、経済アナリストの藤原直哉氏が提唱していているものである。



安くて豊富な石油時代に生きてきた我々は便利になろうとして、もっと多くのエネルギーを使おうとする。それにはお金がかかるから、お金のために余計に働かなくてはいけない。だからいつも忙しい。多くの人が家族や友達と過ごす時間を削り、趣味や地域社会に気をかけなくなり、社会全体がぎすぎすしている。気がつけば、聞きもしたくないような凄惨なニュースを毎日きくことになる。我々は便利になろうとして、本当に幸せになったのだろうか? 多少不便になっても、少ないエネルギーで工夫を凝らしながら、暮らしていった方が、幸せに健康に暮らせるのではないか、そんな問いかけである。この考えは個人の生活だけでなく、国、地方、企業にも適応できる考えである。



ここでいう「低エネ」は「省エネ」と似て非なるものである。省エネは今までと同じ性能や機能を持った物の効率を上げてエネルギーの消費を減らそうとすることだ。今での利便
性を保つことが前提にあるので、エネルギーを減らすのには、限界があって、開発費と費用が高くなる。一方、低エネは、それまでのアプローチを発想から変えて、技術だけでなく、さまざまな手段を使いながら、多少不便になることには目をつぶっても、劇的に少ないエネルギーの消費量で目的を達成させることだ。




例えば、今自動車会社が一生懸命開発を進めている電気自動車などが、省エネを目指してうまくいっていない例だ。電気自動車はガソリン車より3倍もエネル
ギー効率がよく省エネであるといわれている。*1 電気自動車が世の中に普及すれば、これは画期的な省エネであるといえる。





しかし、電気自動車の動力源として有望視されているリチウム電池は、エネルギーのキャリアとしては、ガソリンに遠く及ばない。同じ質量のガソリンがもつエ
ネルギー容量は、電気自動車用のリチウムイオン電池のなんと80倍もあるだ。*2 しかし今の電気自動車の開発は、これほどのハンディを負いながら、今までのガソリン車と、同等な性能や機能を持つ車求めているのだ。ここに大きな間違いがある。今後さらに電池の開発が進むにしても、ガソリンとの差を埋めるのは、膨大な研究費用、時間、人的資源が必要とされる。



現在、ガソリン車の性能を出すことは、実はすでに技術的には可能だ。ただ、そのためには、エネルギー密度は低いが高価な電池を、大量に搭載しなくてはならず、車体価格は何千
万円に跳ね上がってしまう。完全に省エネの罠はまってしまっている。これではとてもガソリン車に太刀打ちできず、商売にならないのである。商売にならな
ければ、電気自動車がいくら環境にやさしいといっても、普及することとはない。いくらなんでも、今までのガソリン車と同程度の性能の車に、何十倍のお金を
払える環境愛好家はそんなにいないだろう。




では、低エネな電気自動車というのは、どんなものになるのだろうか? まず、電池はエネルギー密度でガソリンに劣っているのだから、ガソリン車の性能や機能を追い求めないことだ。自動車とはただの便利な移動手段であるという根本的なところに一度立ち戻って考える必要がある。車の使われ方をみれば、大半は通勤で短い距離を、一人で運転しているのだ。人間一人60キログラムを移動させるために、本当に一トンもの鋼鉄の塊を一緒に動かす必要があるのだろうか?だから、一人もしくは、二人の人間を、それほど長くない距離を快適に移動させることを目指せばいいのだ。



車体を出来るだけ軽く小さくし、走行距離を短めに、スピードも低めに設定すれば、高価なバッテリーも減らすことも出来、値段も抑えられる。こんな通勤・通学用の一人、二人乗りの電気自動車の開発は今すでにある技術で可能なはずである。原付よりも少し早くて、快適であ
り、値段も手頃であれば、大きな需要があるだろう。ただ、今までガソリン車を大量生産してきて利益をあげている自動車会社は、こんな電気自動車を開発したり販売しないだろう。会社の短期的利益と、長期的利益が対立しあうからだ。まるでデジタルカメラを売り始めたときのフィルムメーカのような立場だ。デジタルカメラを売れば、フィルムが売れなくなるが、デジタルカメラを売らないと時代に乗り遅れてしまうという感じだ。




まあ、電気自動車とか、燃費のいいエンジンとかこのような「技術開発」をしなくても、自動車のガソリンの消費を半分にするのは可能だ。発想を変え行動できれば、それほど難しいことではない。ではどうすればいいのか? たとえば一番簡単なのは、乗る人を倍に増やせばいいのだ。車を主に通勤につかっているのであれば、近所に住んでいる人で同じ方角に通勤している人を探して、一緒に一台の車を共有すればいい。今まで一人で乗っていた人は、二人で乗ることになれば使う石油は半分で、四人で乗れば、4分の1でいいわけだ。なんとも笑ってしまうような話かも知れないが、それでいいのだ。もちろん一人で乗るよりは、不便だろうし、時間も少しかかるかもしれないけれど、新しい近所づきあいが出来て、人間関係が広がるかもしれない。使うエネルギーをもっと減らしたいなら、もちろん公共交通機関を使う方法もある。さらに言えば天気のいい日は自転車に乗って通勤すれば自分の食べ物以外のエネルギーいらないし、健康にもいい。雨の日だけは車に乗ればいい。



さらに考え方を変えて、住む場所をかえることもできる。通勤先の近くにすれば、車で通勤をしなくてもいい。東京の都心のようなところでは家賃が高くてそんなことができないというのであれば、地方都市に引っ越せばいい。引っ越すのがいやなら、仕事の場所を変えればいい。自分の家の近くで仕事を探すとか、情報系の仕事であれば、インターネットを使って自宅で仕事をすることも出来るだろう。そうすれば通勤も必要なくなる。田舎で畑仕事をしながら、ネットで仕事をするというのも一つの手である。このようにいろいろなアプローチを組み合わせることで、エネルギーの消費は劇的に減らせるだろう。



ここで挙げた例は一歩踏み出すのには勇気がいるけど、どれも難しいことではない。要するに今までの固定概念を変える必要があるということだ。ただ固定観念は、エネルギーの値段が変えてくれるだろう。いままでのライフスタイルを貫くにはもっとお金がかかるようになるからだ。たとえばカナダでは、平均、1年で二ヶ月分の給料を、自動車を維持するのに使っている計算になるそうだ。


*3 これが上がっていったらどうなるか? 私なら、自転車に乗って、もっとほかの分を贅沢するか、その分働かないで、自分の好きなことをやっていたと思う。



街づくりの観点で見れば、人々が低エネルギーでも暮らしやすいように街を整備していくことが大切だ。街を郊外に拡張させないで、中心部を大切にして、コンパクトにしていく。あなたが住んでいる団地で、仕事をし、買い物ができ、生活全般のことを歩いて済ませられるように街を整備していく。日本は高齢化がどんどん進んでいくのでこれは非常に大切である。田舎であれば、どうしても車が必要になってくる場合が多いから、その地の利を生かし、自然エネルギーで、エネルギー自給自足を目指すべきだろう。



交通機関の整備も欠かせない。電車や地下鉄などを作るお金がなければ、道路にバス専用道路を作るという手もある。ここを二両続きのバスを運行すれば、非常に安い値段で効率的な公共交通を作ることができる。乗客は、バスの待合室に入るときに料金を払うので、無駄な時間のロスがない。これはブラジルのカルティバという街で始まったバス・ラピット・トランジット(BRT)と呼ばれるシステムである。このように大きなお金をかけなくても、新しい技術を開発しなくても低エネルギーを達成することはできる。大切なのは考え方を変えることだ。



世界一エネルギー効率のいい乗り物である自転車に、日本人はもっと敬意を払う必要もあるだろう。こんなに普及しているのにないがしろにされている物も珍しい。日本では自転車が、車道を走ったらいいのか、歩道を走ったらいいのかわからない、あやふやな状態になっている。やはり安全に自転車に乗れるように自転車専用道路を整備していくべきだ。こんな物は、在来の電車や、地下鉄などと比べれば、ほとんどただのような値段で整備ができる。



一人ずつが乗り物を所有すると、街中が乗り物だらけになってしまうので、乗り物をシェアするという考えも大切だ。パリで昨年始まったVelib’
(ヴェリブ)というセルフレンタルバイクサービスは、いい参考になる。これはパリ市内に二万台の自転車を配置し、千五百ヶ所の駐輪所を作り、好きなところで自転車を借り、好きな駐輪所に乗り捨てをできるというシステムである。これがすでに地下鉄の利用者に方を並べるほどの人気になっている
。*4 この考えを自動車に適応して、小型の電気自動車を街中に配置して、セルフレンタル自動車サービスを作ることもできる。こういう物があれば、二ヶ月分の給料を自動車につぎ込む必要も無く、余計に働かなくてもいいので、のんびり暮らせて、低エネルギーである。



ピークオイル後は、世界中でエネルギーが足りない状態が続く。企業は、そんな中でも生活が快適になるような製品やサービスを考えていけばいい。低エネルギーをキーワードに考えていけば、続々と新しい製品のアイディアがわき上がってくるだろう。こういう物を日本人が本気になって作り出したら強いと思う。低エネ商品の例を一つだけ挙げるとするば、発明家の藤村靖之氏が開発した放射冷却を利用し電気を使わない冷蔵庫だ。屋外に設置しなくてはいけないし、一日に2、3度しかあけられないという制約あるが、非電化で摂氏8度に保つことが出来る。*5 こういう物が世界中でこれからほしがられるだろう。低エネ商品には大きな可能性がある。



その時の国の役割は、人々の低エネへの工夫や新たな取り組みを邪魔しないことだ。規制、法律、行政指導のような物が、日本人の創造力をがんじがらめにしている。支出を減らし、税金を下げ、地方や個人に仕事を任せるべきだ。そうすれば、各自が工夫して暮らしていくだろ。国の借金や税金を払うために国民を余計に働かせれば、国民は疲弊し、最終的に国も疲弊する。これが今の日本の姿だ。国が本来やるべきことは、外交、安定した通貨の管理、国防のはずだ。


ピークオイルがいつくるかはわからないが、私はこれから準備をしていこうと思う。重要なのは、ピークを境に、満ち潮が、引き潮に変わるように、トレンドが大きく変わるということだ。今までのように、石油をどんどん消費し、街も、国も、
経済も大きくなる傾向から、石油がすこしづつ使えなくなり、みんな小さくなっていくという流れになる。いったん流れが変わったら、もうもとには戻らないし、誰もその流れに逆らうことはできない。流れに逆らおうとする国は、政治、経済、社会、安全保障といった面で、大きな負担を抱えることになり、弱体化し、自然淘汰されていく。石油文明の終わりである。
当分の間は、石油に取って代わるようなエネルギー源は現れない。だから大幅にエネルギー使用をカットする必要なる。それでも我々が明るく、楽しく、幸せに暮らしていけるように、今から準備を整えよう。



最後にこの文章を書く機会を与えてくれた副島隆彦先生には感謝の意を表したい。学問道場ではいつも多くことを勉強させていただいています。そして、今回多くの的確なアドバイスをしていただいた若手政治研究家の中田安彦氏と、出版社の成甲書房の方々にも深く御礼を申し上げたい。




(了)






参考文書



2、ピークオイル:安くて豊富にある石油の終わり

1、The Oil Drum Oil Watch July 2008 

http://www.peakoil.nl/wp-content/uploads/2008/07/2008_july_oilwatch_monthly.pdf





3、世界のピークはいつくるのか



1、季報エネルギー総合工学Vol.28No.2|寄稿ピークオイル説を検証する 本村 真澄

http://www.iae.or.jp/publish/kihou/28-2/09.html



2、ん! 愛媛県議会でピークオイル論争

http://www.janjanblog.jp/user/stopglobalwarming/forum2/2966.html



3、Richard Heinberg's Peak Everything

http://www.youtube.com/watch?v=ybRz91eimTg&feature=related



4、商品の時代 ジム・ロジャーズ P192





4、石油の量、質、生産コスト、EPR



1、エネルギー総合工学研究所 季報エネルギー総合工学Vol.28No.1(2005.4) 石井吉徳

http://www.iae.or.jp/publish/kihou/28-1/02.html



2、ブラジルで海底油田発見、埋蔵量は330億バレル? AFPBBNews

http://www.afpbb.com/article/economy/2378658/2834967



3、ブラジルでまたも大油田発見 NBOnlineのBusinessWeekの邦訳から

http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20080424/154139/?P=1&ST=bw



4、商品の時代 P213 ジム・ロジャーズ


5、ABC Four Corners Peak Oil 2006 Documentary

http://video.google.com/videoplay?docid=266072673952854011&q=peak+oil+&ei=WTeHSMjHDYKsrQLO5OHBCA



6、 RichardHeinberg'sPeakEverything

http://www.youtube.com/watch?v=ybRz91eimTg&feature=related



7、実質的に[石油ピーク]を認めたIEA:20世紀型文明の行方 石井 吉徳

http://www007.upp.so-net.ne.jp/tikyuu/oil_depletion/iea_exxonmobil.htm



8、 季報エネルギー総合工学Vol29No.3  日本をめぐるエネルギー資源と大陸棚問題 芦田 讓(京都大学大学院工学研究科教授)

秋山 守((財)エネルギー総合工学研究所 理事長)

http://www.iae.or.jp/publish/kihou/29-3/02.html





5、伸びない生産量、伸び続ける潜在需要



1、OilDrum Oil watch Monthly

http://www.peakoil.nl/wp-content/uploads/2008/05/2008_may_oilwatch_monthly.pdf




2、中国自動車産業の30年間の移り変わりjapanese.china.org.cn

http://japanese.china.org.cn/jp/txt/2008-03/31/content_13966325.htm



3、実売価格30万円以下!印タタ自動車、世界最安のコンパクトカー「NANO」発表 マイコミジャーナル

http://journal.mycom.co.jp/news/2008/01/11/002/



4、BP Statistical Review 2008

http://www.bp.com/liveassets/bp_internet/globalbp/globalbp_uk_english/reports_and_publications/statistical_energy_review_2008/STAGING/local_assets/downloads/pdf/statistical_review_of_world_energy_full_review_2008.pdf






6、ドル石油体制への攻撃 アメリカ石油帝国の崩壊



1、 Kevin Phillips Bad Money P122。



2、 Kevin Phillips Bad Money P149



3、 Kevin Phillips Bad Money P149





7、戦略的低エネルギー


1、

佐藤研一朗 水素社会・燃料電池の大きな嘘 近未来交通機関の現在4 仙台インターネットマガジン

http://www.im-sendai.jp/archives/2006/11/post_215.html






2、電池技術で競い合う 自動車開発 design news Japan

http://www.designnewsjapan.com/issue/2008/06/o14nbe000000afmr.html


3、Cycling for Everyone: Lessons for Vancouver from the Netherlands, Denmark, and Germany
http://www.sfu.ca/city/city_pgm_video020.htm

4、 佐藤研一朗 ローテクの逆襲 自転車の可能性 仙台インターネットマガジン
http://www.im-sendai.jp/archives/2008/02/post_250.html





5、非 電 化 工 房

http://www.hidenka.net





参考本・ウエブサイト




幻の水素社会 藤井耕一郎

連鎖する大暴落 副島隆彦

商品の時代 ジム・ロジャーズ

Party's Over  Richard Heinberg

Power Down  Richard Heinberg

The Long Emergency James Howard Kunstler

Bad Money  Kevin Phillips

新生日本の国家ビジョン 藤原直哉

里屋和彦の『エネルギー学講座』http://www.soejimatakahiko.net/rika/satoya/index.html

武田邦彦ウエブサイト http://takedanet.com/





参考ビデオ

Richard Heinberg's Peak Everything

http://www.youtube.com/watch?v=ybRz91eimTg&feature=related



The Richard  HeinbergInterviewv

http://www.youtube.com/watch?v=DHXdS9XYVs8&feature=related



The Long Emergency

http://www.youtube.com/watch?v=hXsCMC0xcOY&feature=related



Cuba Peak Oil 1990s what we are facing now.

http://www.youtube.com/watch?v=CCiHpPkp3pU&hl=en



Power Of Community-How Cuba Survived Peak Oil

http://www.livevideo.com/video/mercofspeech/CD893609A0CB495D9A9CF04AC9E4AEFF/power-of-community-how-cuba-.aspx



石井吉徳教授の石油ピークに関する講演資料

http://education.ddo.jp/ishii/


都市農業を進める中米キューバ

http://www.youtube.com/watch?v=hgsmE0VvpYM&hl=en



キューバ都市農業リポート「 Saludサルー!ハバナ」

http://www.isacci.com/



Cycling for Everyone: Lessons for Vancouver from the Netherlands, Denmark, and
Germany

http://www.sfu.ca/city/city_pgm_video020.htm



ABC Four Corners Peak Oil 2006 Documentary

http://video.google.com/videoplay?docid=266072673952854011&q=peak+oil+&ei=WTeHSMjHDYKsrQLO5OHBCA
















アメリカの石油生産量のグラフ


SeacoastNRGがUS
Energy Information Agencyの発表を元に作ったもの


http://www.seacoastnrg.org/2007/03/05/us-crude-oil-production-falls-to-57-year-low/s







Power
Down Richard Heinberg 18ページより






拡大する石油発見量と生産量のギャップエネルギー総合工学研究所 季報エネルギー総合工学Vol.28No.1(2005.4) 石井吉徳

http://www.iae.or.jp/publish/kihou/28-1/02.html










Party's
Over, Richard
Heinberg124ページより








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投稿者 佐藤研一朗 : 2008年11月28日 06:30
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